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なまもの、けものブログ

70%ニートが、なんてことないことをかくブログです。

完膚なきまでの「父親殺し」―『私の男』書評―

 

私の男

私の男

 

 

 

桜庭一樹氏の作品で、第138回直木賞を受賞しています。

私はこの方の作品を読むのは初めてでした。

映画の宣伝がとてもおもしろそうだったので

原作に手を伸ばしました。

今日は軽く、感想を記しておきたいと思います。

 

この作品は、まるでジェットコースターのようです。

最初この作品の世界に入るのには少し労力が要りますが

あとは勢いに乗ってラストまで駆け抜けていけます。

 

最初に少し労力がいる理由は、

この作品の魅力と重なる部分でもあります。

 

それは、生々しさ。

 

生々しいにもいろいろありますが、

この作品の生々しさは

ジトっと、ヌメっとしている。湿り気のある生々しさです。

 

湿り気を持ったモノが重いように、

最初はこの生々しさが重く感じてしまいます。

 

しかし、読み進めていくとだんだん欲してくるのです。

もっと欲しくなるのです。

湿り気を。生々しさを。

 

雨、雪、海、氷、波、汗、液、涙、唾。

 

物語は自然の水分、人の水分によって彩られ

人の心の陰湿さを引き立てていきます。

 

私は一冊読み終わったとき、

完膚なきまでの「父親殺し」の物語だと感じました。

 

父親殺しといえば、フロイトのエディプスコンプレックスという概念

があります。

 

エディプスコンプレックスとは、母親を手に入れようと思い、また父親に対して強い対抗心を抱くという、幼児期においておこる現実の状況に対するアンビバレントな心理の抑圧のことをいう。   (ウィキペディアより)

 

エディプスコンプレックスを一言で言え、となると上のようになります。

 

ではどこが「父親殺し」なのか、私の考えを述べていきたいと思います。

 

この物語には2つの殺人が起きます。

大塩、そして田岡。

 

殺人の経緯を簡単に振り返りたいと思います。

大塩を殺めたのは花でしたね。

大塩は淳悟との関係を知り、花を淳悟と引き離そうと説得しようとしますが

花に極寒の海へと流されてしまいます。

 

田岡を殺めたのは淳悟。

大塩の事件の真相(花が殺した)を掴んだ田岡は、

花と淳悟の暮らす家へと向かいますが

淳悟に包丁で刺されてしまいます。

 

大塩は土地の権力者、田岡は警察官。

 

二人とも、権力=父性をもった存在だと考えられますね。

そして、花と淳悟を引き離す存在でもあります。

 

淳悟にとっての「母」=花を奪う、父性を持つ者を殺す。

父親殺しの図式が当てはまると考えられます。

 

生物学上の

花の父、淳悟の父をみても、ともに海で亡くなっています。

 

つまりこの物語には「父」がいないのです。

「父」は徹底的に排除されます。

 

いえいえ、父はいるじゃないか

淳悟が父ではないかという反論があります。

確かに花の生物学上の実父は淳悟です。

 

しかし、花は淳悟を「おとうさん」と呼ぶのです。

決して「お”父”さん」ではない。

 

そして、淳悟も「父」にならないためにアレをするのです。

近親相姦です。

花にとって意味上の「父」とならないために

淳悟の中にある「父」を自分で奪うのです。

そしてさらに花を「おかあさん」と呼び

むしろ息子であると言い聞かせている。

 

貧しいのに飄々としている、少年の要素を持っていることも

淳悟の父性の欠落を表していると思います。

 

時系列的にはラストの、花の結婚式の場面。

花の父親という枠組みでスピーチを聞かされる淳悟。

淳悟は自分が「父」と客観的に判断されてしまうことを受け入れられないのか

まともに向き合えません。

 

この後、淳悟はどうなるのか。

「父」を受け入れられるのか、余韻を残したまま終わります。

 

私は淳悟は「父」を受け入れるのではないかと思います。

長きにわたって身体の関係を持ち続けていた二人も、

1章ではもうそんな気持ちはなくなったというような記述も見受けられます。

 

しかし、この物語に大きく横たわる

「父」の排除。

 

花は最後淳悟のことを忘れないとしていますが、

結婚式の場で「父」の立ち位置に行ってしまった淳悟は

排除されるのではないかと考えます。

 

少なくとも、もう2度と花の前には現れない。

誰に言うともなくこっそりと

雨降りしきる海に飛び込み自ら命を絶つのではないでしょうか。

「父」と同じように。

 

 

まだ映画を見ていませんが

映画はどのように『私の男』を表現しているのか

とても気になります。

ただただ、ジトジトしていて欲しい。

 

ではまた。