なまもの、けものブログ

70%ニートが、なんてことないことをかくブログです。

引きこもっていたら、奇跡をみた。―なくしてはじめて気付く大切さ―

あれは、悲しみの涙だった―

 

    *

 

家の前に、ちょっとした公園があります。

 

今日、その公園のシンボルともいえる遊具が取り壊されました。

こんな感じの遊具です。

 

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結構、立派。

幼いときは、毎日のようにこの場所で遊んでいました。

ほとんどが木でできているので、

夢中で遊んでいると、よくとげが刺さりました。

三段構造になっているので、

足を踏み外して落下したこともありました。

 

 

 

遊具で遊ばなくなってからも

家を出るとき、帰るときは

公園を通り過ぎるので、必ずこの遊具くんは目にしていました。

 

 

今日は運よく一日中家にいたので、

取り壊される一部始終を見ていました。

 

 

ゴゴゴゴゴッ

 

数台のトラックと、10人程度の紺色つなぎの作業員たちとともに、

ショベルカーがやってきました。

 

午前中は、作業員が部品同士を繋ぎ止めていた金具を外し、

遊具くんの周りの砂利をスコップでどかす作業。

 

午後は、ショベルカー。

容赦なく、拳を振り下ろします。

 

まずは滑り台を外して持ち上げ、柱をなぎ倒し、のぼり棒を力ずくでねじ曲げる。

 

ちょっとこみ上げてくるものがありました。

怒りなのか、悲しみなのか、苦しみなのか、わかりませんが、

何か自分の一部を奪われている気がしました。

 

 

いろんな思い出がある遊具くん。

20年以上も、いろんなパーツを替えながらも、

公園のシンボルとして居続けた遊具くん。

 

 

 

ものの2時間で、跡形もなくなりました。

 

 

残ったのは、

平らな地面だけ。とても広く見えます。

 

そして、

トラックの荷台にバラバラにされて積み上げられた遊具くん。

絶え絶えに息をしているのが、聞こえた気がしました。

 

 

遊具くんにしてみれば、

10年以上も遊んでくれなくなった僕なんかに、

最期だけ見届けられて悲しまれても、

いい気分ではないでしょう。

 

でも、僕は見届けなければいけない気がした。

今日一日家にいるのも、遊具くんを見届けるためだったのではないか

とまで思った。

 

遊具くんは、僕の人生とともにいたことに、

取り壊されるときになって気付いたから。

 

     

 

あまりにも「そこにいる」ことが普通で、自然で、なくなることが想像つかないものって、

 

失うときにはじめて、その大切さを知ることがあります。

 

遊具くんは、人ではないし、

いつも一緒にいたわけではないし、

たまたま家の近くの公園にあっただけの関係で、

僕にそれほど影響を与えたものでもない。

 

でも、僕の人生に「そこにいる」ことが普通だった。

公園からなくなるなんて考えたこともなかった。

 

喧嘩することも、目を合わすことさえなかったけれど、

ただ、ただ僕のそばにいたというだけで、

遊具くんは、ただの公園の遊具ではなくなっていた。

 

 

風が滞りなく吹き抜ける更地をぼーっと目にしながら、

喪失感が、あとからあとから押し寄せてきた。

押し寄せるたびに、強くなっていった。

 

 

 

作業を終え、バラバラになった遊具くんを載せて

作業員が帰ろうとしているとき、

 

ラジオから、ふいにこれが流れた。

 

 


Summer-久石譲 - YouTube

 

心に染み入るように、メロディが入ってきた。

 

この状況に、この音楽が流れるなんて奇跡だと思って、

思わずムービーを回した。

(顔も、家も、映っているしブレブレなのでお見せできませんが、、、)

 

空間と音が、共鳴していた。

 

 

曲が終わった。

DJが「今日は本当に夏の陽気ですね~」と話し始めた。

いつも聞いて癒されているDJの声が、この時はうるさく感じて、

ラジオを切った。

 

しばらく余韻に浸った。

遊具くんにも、この曲届いていたのかな。

 

Summerは、別れの曲だ。

そう思った。

 

奇跡は続く。

 

Summerからしばらく経って

 

ジャーーーーッ

 

と猛烈な雨が公園を襲ったのだ。

 

一旦雨宿りに立ち去る作業員。

 

なにもなくなった空間、

そのそばに、バラバラになってトラックに積まれた部品、

降りしきる雨。

 

こんな演出ありますか、と

窓越しに腰を抜かす僕がいた。

 

泣いている、泣いているのだ遊具くんは。

この公園が好きだったんだ。

 

そう思った。

 

決して遊具くんもいい人生だったわけではない。

ヤンキーに花火ぶち当てられたり、

ホームレスの寝床にされたり、

子どものケガの責任を押し付けられたりした。

 

でも、きっと幸せだったのだと思う。

この公園が好きだったのだと思う。

 

ゲリラ豪雨なのに、なかなか降りやまない大雨を見ながら

そう感じた。

 

しばらくして、雨があがった。途端にものすごく晴れた。

 

いよいよ、出発の時間。

 

ショベルカーとともに、バラバラの遊具くんは公園を後にした。

 

「ありがとう」

トラックを目で追いかけながら、自然に口から言葉が出ていた。

 

日ごろ、全然感動しない男ですが、

今日は奇跡を目の当たりにした気がして

ものすごく感動した。

遊具くんの最期に立ちあえて、よかった。

 

もうないけど、

僕は、絶対遊具くんのこと、一生忘れないよ。

 

(ノンフィクションです。念のため。)

ではまた。