すれ違いペースメーカー
こんばんは
僕は決まった時間に家を出る。
最寄りの駅までの一本道で、決まってすれ違う人がいる。
小太りでスーツ姿のおじさん。
多分その人は、僕が向かっている駅で降車してこちら側に歩いてきてるのだけど
いつも同じ電車なのだろう、
すれ違う場所は、いつも同じ、青い屋根の家の前。
だから、
その家から駅よりの場所ですれ違うと、
「あれ、家早く出過ぎたかな、それとも今日この人遅れてる?」
って思うし
より駅から離れた場所ですれ違うと
「僕の歩くペースが今日は遅いかな」と思い
スピードを上げる。
いわば、すれ違いのペースメーカーなのだ。
*
今日は、そのペースメーカーに会うことなく駅に到着してしまった。
いつも通りの電車に遅れることなく乗れたのだけど
ゴールテープを切った気がしない。
どうしたのだろう、有給かな、体調崩したのかな。そういえば昨日マスクしてたっけな。
全く赤の他人だけど、
なんだか生活の1ピースが抜け落ちてる気がして
いろいろ思考を巡らしてしまい
行きの電車は本を読んでも文字が脳に入っていかなかった。
この世界にいる人の限りなくほとんどが、名前も何も全く知らない人。
でも、「知らない」にもいろいろあって、
すれ違いペースメーカーのおじさんのように、
僕の人生のピースの一欠片になっている人もいる。
こういうピースは、集めれば集めるだけ
毎日がほんのり温かくなる気がする。
*
明日はペースメーカーとともに朝を始められるでしょうか。
いつもの時間、あの青い屋根の家の前で。
明日の楽しみが一つ増えた。
ではまた。