あの犬はちゃんと僕を見ていた
こんばんは
今日は予定と予定の間がベリーロングだったので
公園のベンチに座って何時間も過ごした。
コーヒーが苦手で
ドリンクバーの炭酸も苦手で
マックの喧騒も苦手だし
タダで緑を眺めてボーっとしていられるから、いい。
今日はすこし暑かったけれど。
*
提出する書類にどんなことを書こうか
ノートを膝の上において腕組みして遠くを見ていたら
ワンちゃんが僕をめがけてやってきた。
「あらあらあら、すみませんねー」
と微笑みながら飼い主の女性もやってくる。
僕の足元で立ち止まり、盛んに尻尾を振る。
これでもか、これ以上やると引きちぎれるぞとばかりに、振る。
久しぶりにダックスフンドをみたからか、いくぶんか、小柄にみえる。
犬を飼ったこともなく触り慣れてもいないので
目をみつめることしかできなかったが
「すみません、おとなしいので、
差支えなければ少しなでてもらってもいいですか、満足すると思いますので」
と女性は僕に言ってくれた。
差し支えは全くないので
そっと手を触れると、犬の目が細まる。
やりかたがよくわからないけど
頭、首のあたりをさすってあげた。
「かわいいですね」
と僕が言うと
「この子ね、もう12歳なの。おばあちゃんなのよ」
と教えてくれた。
だから、ちょっと小さくしぼんだ感じがするのか。
たしかに、こちらに向かってくる足取りもよたよた歩きだった。
一方、飼い主の女性はしゃんとしていたけれど、きっとその犬と同じく若くない。
*
これくらいでもういいかな、満足したかな
と思い、触るのをやめて
飼い主の女性も「ありがとうございました、じゃ、いこうか」
とリードを引っ張ったのだけれど
犬は断固として動かない。
まだ、まだ尻尾を盛んに振っている。
女性は、「すみませんねー」と言った後に
「うーん、おかしいなー」と続けた。
僕がどうしてか聞いてみると、
なんでも、この子は
人見知りが激しいみたいなのだ。
しかもヒトの男性には異常に警戒し、
自分から見知らぬ男性に近づくことはこれまでなかったのだという。
「慣れたのかしら?お兄さんがとっても優しそうだからかもしれないわねー」
この言葉を女性は犬の顔を見ながら発した。
僕はなんだか、犬に認められたみたいで
ちょっぴり恥ずかしく、とっても嬉しかった。
たしかに、僕はムキムキではないし
威圧オーラはゼロだ。
男らしくない、なよなよしていると判断されることが多い。
そんな自分が嫌いだったけれど
飼い主の女性の話を聞いて
あの犬が近づく価値があった僕という存在が、好きになった。
*
あんなかわいい犬が言うのだから、間違いはない。
きっと僕のやさしさを、理解してくれる人はどこかに絶対いるんだろう。
もっと自分を好きでいよう。
好きなまま生きようと思った。
ワンちゃんの名前、聞いておけばよかったなあ。
あの子に恥じない生活を送っていこうと思う。
ではまた。